【覚醒】

「お前なんかに、素子は殺させない」
気がついたら、私は疑問も迷いもなく、男の首を掴んでいた。
全身の血が煮立ったように熱い。頭の中がぼんやりする。
そのくせ五感だけは異様に鋭くなっていて、男の皮膚の下を通る血管、軋んだ音を立てる骨が、やたらと鮮明に意識された。
あれだけ深く刺されたはずなのに、今は飛んでいけそうに体が軽い。
「もう二度と、奪わせない」
明確な殺意をもったこの声は、一体誰のものだろう。
冷え冷えとして、自分のものとは思えなかった。